むか~しむかしのある日、おばあさんが川へ洗濯に行くと、大きないちごが
「どんぶらこっこ、どんぶらこっこ」と流れてきました。
おばあさんは家へ戻ると、おじいさんはパチンコへ出かけて留守でした。
チャ~ンス!
ひとりで食べてしまおうと、おばあさんはいちごのヘタを切り落としました。
すると、中からとんでもなくかわいい柴犬が出てきたのです。
柴犬はおばあさんの目をじっと見つめて言いました。
「おばあさん、あなたはこのいちごを自分ひとりで食べるつもりですか?」
欲張りな自分が恥ずかしくなったおばあさんは、食い気味に答えました。
「まさか! もちろん、おじいさんと半分こしますよ」
柴犬はフーとため息をつくと、おばあさんにむかってあごをしゃくりました。
「おばあさん、まあいいから、そこに座りなさい」
おばあさんが素直に座ると、柴犬はゆっくりと語り出しました。
「いいですか、おばあさん。
おじいさんは、血糖値が高めですよね?
あなたはそれを知りながら、おじいさんにいちごを食べさせようとしている。
それって、本当に愛でしょうか?」
おばあさんは少し考え、首を横に振りました。
柴犬は、軽くうなずいて言葉を続けます。
「そう。おじいさんを本当に愛しているなら、いちごを分けるべきではないんです。
でもだからといって、おばあさんだけで食べるのもどうでしょう?
いい大人が、おいしいものをひとり占めするなんて……。
このあたり、受け止め方は人それぞれかと思いますが、
おばあさん、あなたはいかがですか?」
おばあさんは、思わず顔を赤らめました。
まさに、いちごをひとり占めしようとしていたからです。
「そうねえ。私には、とてもできないわね。
なんだかガツガツしてるみたいで恥ずかしいし、
おじいさんに悪いような気もするし」
柴犬は、ゆっくりと数回しっぽを振りました。
「おばあさん。あなたは今、深刻なジレンマに陥っています。
特大のいちごをひとりでがっつくのは恥ずかしい。
でも、最愛のおじいさんと分けあうこともできない。
さあ、どうする」
下を向いて黙り込んだおばあさんの手を、柴犬はやさしくなめました。
「おばあさん、聞いてください。
私たち犬の使命は、人間を助けることです。
だから、私が力をお貸しします」
思わず顔を上げたおばあさんに、柴犬は力強く語りかけます。
「おじいさんのかわりに、私がいちごを半分いただきましょう。
これで、ジレンマは解消しますよね。
もちろん私は、いちごが大好……いや、いちごなど好きではありません。
むしろ苦手、いや大きらいです。
でも、私のがまんでおばあさんが救われるなら耐え忍んでみせます」
おばあさんは柴犬のやさしさに感動し、
泣きながらいちごを半分に切り分けました。
「ありがとうね、やさしい柴ちゃん。
いや、いちご太郎と呼ぼうかね。
私のために、つらい思いをさせて申しわけないねえ」
いちご太郎は、涙を浮かべたおばあさんになでられながらいちごを食べました。
「うっ、まずい。オエッ……」
適当にコメントをはさみながら極上のいちごを味わう柴犬のしっぽは、
ずっとパタパタと左右に揺れていましたとさ。
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コメント
コメント一覧 (2件)
拝読していて「まんじゅうこわい」を思い出しました笑
おばあさんも根はおじいさん思いのいい人なのですね、たぶん・・・👵
おじいさんがパチンコに勝ったのかがちょっとだけ気になります。
いちご太郎のクリクリした目が可愛い😆
ささかまさん、ありがとうございます!
おじいさんがパチンコに勝ってチョコレートを持ち帰ってきたりしたら、ドラマの第2章が始まりそうです。