柴犬1コマ劇場 世界むかシバなし「ブレーワンの音楽隊」

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飼い主に乗る柴犬

モデル/ピエロ 写真提供/飼い主さん

目次

ブレーワンの町へ

昔むかしのある日、シバ子(仮名)と飼い主さんは、ブレーワンの町に向けて出発しました。
音楽隊に入って超有名演奏家になり、パッとひと山当ててやろうと思ったからです。

クンクンしたりシーしたりしながら森の小道をブラブラ歩くうちに日が傾き、おなかもすいてきました。
そろそろ拒否柴を発動して飼い主さんにだっこしてもらおうかな、とシバ子がたくらみはじめたとき、木々の向こうに小さな家が見えました。

「ああ、よかった。あの家でひと休みさせてもらいましょう。
 ついでにおいしい夕ごはんをごちそうになって、できればお風呂に入らせ
 てもらって、どうせならひと晩泊めてもらいましょう」
飼い主さんは、拒否柴防止のために、シバ子を急かして小さな家に向かいました。

見つけた家は……

小さな家の玄関で、インターフォンを押そうとした飼い主さんが動きを止めました。
不思議に思ったシバ子が飼い主さんの視線を追うと、扉の横に「泥棒のアジト」と書かれた表札がかかっているではありませんか。
飼い主さんとシバ子は、近くの茂みの中にいったん撤収しました。

家の中にいるのは、おそらく凶悪な泥棒グループでしょう。
「ごめんくださ~い」と訪ねた旅人とワンコを、素直にもてなしてくれるとは思えません。
でも、シバ子と飼い主さんは、もう腹ペコ。
なんとしても、ここで夕ごはんにありつきたいところです。

飼い主さんの作戦

じっと考え込んでいた飼い主さんの顔が、パッと明るくなりました。
「よし、ひらめいた。シバ子、よく聞いてね」
飼い主さんの作戦は、こうです。
1 泥棒たちが集まっている居間の窓の前へ移動する
2 シバ子の背中に飼い主さんが乗り、オバケのふりをする
3 泥棒たちが怖がって逃げ出したら室内に侵入し、家を占拠する

シバ子は深くうなずきました。
さすが飼い主さん。ほぼ完璧な作戦です。
「わかりました、飼い主さん。その手でいきましょう。
 でも1点だけ、変更しませんか。オバケのふりをするときは、飼い主さん
 の上に私が乗るべきだと思います」
飼い主さんは少し不満げな顔をしましたが、シバ子は構わずに続けました。
「いいですか、冷静に考えてみてください。
 普段の私たちの力関係からいって、飼い主さんが踏み台になるのが自然で
 す。そもそも、飼い主さんに私を踏んづけることができますか?」
飼い主さんは一瞬考えた後、がっくりと肩を落としました。
「そうだよね、シバ子。私には、とてもそんなことはできない……」
江戸時代、踏み絵を強要された人たちも、たぶんこのときの飼い主さんのような顔をしていたことでしょう。

シバ子の失敗

さあ、作戦開始です。
居間からは、泥棒たちのにぎやかな酒盛りの声が聞こえてきます。
シバ子は、飼い主さんの背中にサッと飛び乗り、前足で窓ガラスをひっかきました。
カリカリ。カリカリ。
泥棒たちの視線を十分にひきつけると、シバ子はすかさず声を上げました。
ク~ン。ク~~~~ン。
「こら、シバ子! セリフが違う! 
 〝うらめしや~”でしょ!」
足元から飼い主さんの演技指導が入りましたが、もう遅い。
実は、シバ子はあがり症。
泥棒たちに注目された途端、頭が真っ白になってセリフが飛んでしまったのです。
泥棒たちがいっせいに駆け寄ってきて、窓がガラリと開けられました。

耐えるんだ、シバ子

飼い主さんを見捨てて逃げ出そうと決心した瞬間、シバ子の頭に大きな手が伸びてきました。
「やだ、かわい~い~」
「ちょっと、俺にもナデナデさせろよ~」
泥棒たちは、シバ子に夢中。全員が目をハートにして、窓際に集まっています。
反射的に「ウ~(気安くさわるんじゃないわよ!)」と言いそうになったシバ子を、飼い主さんが小声で止めました。
「シバ子、5分がまんして。5分後に、さっきの草むらに集合ね」
そして飼い主さんは、匍匐前進しながら暗闇へ消えていきました。

賢い飼い主さん

5分後、草むらで合流した飼い主さんは、唐草模様の大きな風呂敷包みをかついでいました。
「飼い主さん、どうしたんですか。昭和の泥棒のような恰好をして」
飼い主さんはニヤリと笑うと、包みの中からささみジャーキーを3本も取り出し、シバ子に差し出しました。
「シバ子、グッジョブ。シバ子がみんなを引き付けている間に、キッチンか
 らおいしそうなものをごっそりいただいてきたよ」
シバ子は、飼い主さんの賢さに感嘆して、パタパタとしっぽを振りました。

不思議な泥棒

この日から、ブレーワンの近くの町で不思議な事件が頻発するようになりました。
突然、窓の外にかわいい柴犬が現れ、住人は夢中でナデナデスリスリ。
その隙に、キッチンからおいしそうなものがごっそり盗まれてしまうのです。
こういった盗みを「居空き」というそうです。
猫派の市民の中には、「柴犬が居空き犯の一味なのでは?」などと言う人もいましたが、犬派にとってそんな設定は問題外。
だって、かわいい柴犬が悪事に手を貸すはずがないでしょう?

柴犬と居空き犯は関係しているのか?
シバ子と飼い主さんは、音楽隊に入ったのか?
その後のシバ子と飼い主さんが、妙にリッチな生活を送るようになったのはなぜか?
気になることはいろいろありますが、それはまた、別のお話。

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