モデル/こうめ 写真提供/飼い主さん
むかしむかしのある日、おばあさんが川で洗濯をしていると、上流から大きなキャベツがどんぶらこっこと流れてきました。
おばあさんはキャベツを家に持ち帰り、包丁でふたつに割りました。
すると中から、かわいい柴犬が出てきたのです。
おばあさんは大喜び。
いそいそときびだんごを作ると、風呂敷に包んで柴犬の首に結びつけました。
「さあ、キャベツ太郎や。早くお行き」
おばあさんは、満面の笑みを浮かべて急かします。
柴犬はフーとため息をつきました。
「おばあさん、ひとつうかがいます。“行く”ってどこへ?」
「決まってるでしょ。鬼ヶ島よ、鬼ヶ島」
おばあさんはポケットからスマホを取り出し、素早くフリック入力を始めました。
「行き当たりばったりで家来を探すのはリスキーだからね。
とりあえず、犬は山田さんちのトイ・プードルでどう?
私からメールして頼んでおくから。
キジとサルはどうしようかねえ」
柴犬がスマホを前足でカリカリすると、おばあさんはやっと顔を上げました。
「おばあさん、ちょっとお待ちなさい。
あなたは、ぼくに何を期待しているのですか」
「何って、ほら。
鬼ヶ島に乗り込んで金銀財宝をがっぽり……」
柴犬はあくびをすると、その場に寝転びました。
「ああ、そのことですか。まあ、いずれ行きます」
「は? 何言ってるの。今すぐお行き。
帰ってきたら、おいしいものを作ってあげるから。
そうねえ、鶏肉をゆでてあげようか。
大サービスしておかかもトッピングしちゃおうかな」
柴犬は寝返りを打ち、きび団子の入った風呂敷包みに頭をのせて目を閉じました。
おばあさんは軽くイラッとし、露骨に挑発してきました。
「そうだね、小型犬には鬼退治なんて無理か。
こわいから行きたくないってことね」
柴犬は薄目を開け、面倒くさそう言いました。
「いいえ、怖くなんてありませんよ。
ぼくは、鬼退治に必要な能力も意欲も備えています。
でも、今は行きません」
「今じゃないなら、いつ行くつもり?
明日? あさって?
いずれ行くなら、さっさとすませちゃいなさいよ。
ほら、ゴー!」
「そんなコマンド、言うだけムダです。
いいですか、おばあさん。
飼い主さんを喜ばせるために指示に従うのは、洋犬のすることです。
ぼくは柴犬ですから、自分のすることは自分で決めたい。
鬼ヶ島にも、自分のタイミングで行くつもりです」
おばあさんは、不満そうに反論します。
「なんてマイペースな。
私には、おまえを追い出すことだってできるんだよ?」
「ふーん。
ぼくをこの家においておけば、いつか財宝が手に入るかもしれない。
でも、追い出したら、お金持ちになる可能性はゼロになる。
それ以前に、かわいい柴犬を追い出すことなんてできないんじゃないかな」
この日から10年。
キャベツ太郎は今日も平和に、おばあさんの家で食っちゃ寝の生活を送っています。
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